迷走か、布石か…… | タジキスタン戦からみる森保ジャパンの狙い

日本代表は15日、カタールW杯アジア2次予選第3節タジキスタン代表と対戦した。ともに2勝で迎えたアウェイでの首位決戦は、前半こそタジキスタンの凄まじい勢いに押される展開に苦しんだが、後半に南野拓実の2得点を含む3ゴールを挙げ、結果的には3-0で勝利。開幕から無傷の3連勝とした。

W杯出場権を掴み取る上でこれ以上ない戦績をあげていることとは裏腹に、森保一監督固定的な代表メンバー選考起用法など、いわゆる“采配力”には懐疑的な意見も少なくない。どのような意図をもってアジアでの戦いに挑んでいるのか。タジキスタン戦での戦い方をもとに考察していく。

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『お馴染みパターン』の機能不全に苦しんだ前半

日本の立ち上がりのフォーメーションは4-2-3-1。1トップを先頭に、2列目に3人の選手が並ぶ、“お馴染み”の形だ。メンバーも今回招集が見送られた大迫勇也に代わって1トップの位置に鎌田大地、前節のモンゴル戦で負傷離脱となったセンターバックの富安健洋に代わって植田直通が出場した以外は、いつもながらの顔ぶれであった。

ホームサポーターの声援で勢いづくタジキスタンの積極性不慣れな人工芝の影響など、日本にとって戦いづらい前半ではあったが、スコアレスで折り返す苦しい展開を招いた最大の要因は『鎌田に任された役割』だろう。

前線2列目に並んだ中島翔哉南野拓実堂安律は、自由にポジションを変えながら互いに共鳴し合う攻め方が“いつも”の形。この攻撃力を最大限に引き出すべく、2列目の3人の動きを見ながら的確に自らのポジションを変え、彼らがプレーするスペースと時間を生み出す。1トップとして的確にその役割をこなせていた唯一の存在・大迫の『代役』を任された鎌田にとっては難解なミッションであった。サイドから中に入ってきた中島との距離感を掴めずスペースを失い、ボールキープする堂安からはパスを引き出せず。南野ともオフ・ザ・ボールの動きが被ってしまい、同時にスルーパスを追う場面も見られた。

使い慣れたシナリオの欠員をただ代役で埋めるだけ。選手の個性よりも『お馴染みパターン』を優先し、チームに“機能不全”を生じさせた、浅はかな起用法に疑問を抱く前半であった。

           

『修正力』で勝利をたぐり寄せた後半

日本は、ハーフタイムに行ったひとつの“修正”で一気に流れを掴む。鎌田がポジションを下げて2列目中央に入り、南野と前後でポジションを変更すると、前半息を潜めていた鎌田が躍動。「トップ下のほうがやりやすい」と語るクラブチームでも慣れ親しんだポジションに入ったことで、次々と鎌田はパスを引き出し、そこから左右にボールを散らして攻撃を活性化させる。タジキスタンのマークが徐々に剥がれ出すと、鎌田から左サイドでパスを受けた中島が南野へピンポイントクロス。後半8分の先制ゴールが生まれた。

お馴染みのパターンにこだわる印象の強い森保体制なだけに、組織でなく個を重視した今回の臨機応変な“修正”に感心していたのも束の間。鎌田と南野のポジション変更は、選手同士で提案し実行されていたのだ。森保監督は、この話し合いがロッカールームで行われているのを「聞いて聞かぬふりをした」と苦笑。監督自身はあくまでも鎌田に“大迫の代役”を求めていたらしい。

理想の指揮官……いわゆる名将と呼ばれる監督から想像してみると、監督の意図に反して選手が自主的に戦術を変えることが許されるだろうか。数々のビッグタイトル獲得を成し遂げた希代の名将ジョゼ・モウリーニョであれば、選手に対して激怒し、即交代を命じていただろう。それほどに、自らの敷く戦略に確固たる自信を持ち、勝ちパターンを見出せる戦術眼があるからこそ、それを乱す“自由”な行動を抑制するのだ。

森保ジャパンの戦いぶりからは、その“勝ちパターン”は見えない。「結果的に勝てたからよいけれども」と毎試合感じる不完全燃焼感はそのせいだろう。選手たちの自主性を重んじて戦況を見守った器の大きさは評価できるが、“幅”をきかせすぎれば“まとまり”がなくなるのは必然。格上相手に“個”で通用しなくなったとき、意識を統一して“組織”で制する最善の戦術パターンに選手たちを導く存在こそ“監督”なのだ。組織を重んじる献身的な意識の強い日本人選手の特性からリスクを計算し、多くを語らず選手たちの自主性を育てることを狙い、今回の選手同士の話し合いと修正に繋がったのであれば、末恐ろしい”策士”とも言えるのだが……。

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『チームづくり』と『結果』のバランス

森保ジャパンが現在戦っているアジア2次予選は、W杯出場に向けて一戦一戦が重要な試合であることは間違いないのだが、対戦相手はFIFAランク3桁の順位に位置する格下チームばかり。サッカーに100%勝てる保障はないものの、「毎回ベストメンバーを揃える必要があるのか」と疑問視されている。はたして森保ジャパンは、W杯までの道のりをどのように戦いながらチームづくりを進めるべきなのか。

現在欧州選手権の予選を戦う強豪国の代表チームに目を向けてみると、代表に毎回招集される“常連”の選手は全体の半分程度。残りの半分は、所属クラブで好調な有力選手や将来有望株の若手など新たな顔ぶれ“お試し”で揃えている。スターティングメンバーも固定化されている選手は多くて4〜5名程度で、他は新たな選手を起用するかポジションを変えて起用。戦況を見て、劣勢であれば実績のある代表常連の選手を、優勢であれば新たな顔ぶれを途中から出場させるといった形だ。

一方で、森保体制の日本代表では、代表招集メンバーのほぼ全員が毎回同じ選手で揃えられる。スターティングメンバーや途中交代もほとんどが見慣れたパターンだ。格下相手だろうと一切手を抜かず、ベストメンバーを揃えて勝利を掴む。この点において、「勝率の高い格下相手には別の選手を起用して試すべき」と批判の声があがっているが、個人的な見方はポジティブだ。もちろん指摘すべき点はある。左サイドバックでフル出場を続ける長友佑都は、カタールW杯が開催されるときには36歳。豊富な経験という部分でチームの精神的支柱として重要な役割はあっても、全盛期の頃ほど縦への推進力のないベテランが替えのきかない存在とまでは言えず、先を見据えて安西幸輝など次世代のサイドバックも試していくべきだろう。

それでも肯定的に捉える理由は『結果』だ。タジキスタン代表が前評判とは違って予想外の勢いをもって健闘してきたように、アジア2次予選といえども真剣勝負の場では何が起こるかわからない。3年前のロシアW杯アジア最終予選でこれまでホーム戦無敗を続けてきたUAE相手に逆転負けを喫し、本大会出場が危ぶまれたとき、当時のハリルホジッチ体制がどれほど批判にさらされただろうか。

欧州強豪国の体制を例にあげたが、結果をみれば、格下相手に勝ち点を取りこぼすことは少なくない。W杯前大会だけでも、優勝候補とされたドイツがグループステージで惨敗し、イタリアとオランダは本大会に出場することもできなかった。「最終的に勝ち抜けられればよい」と余裕を見せれば、足元をすくわれ取り返しのつかない結果ともなりうるのだ。

イングランドやスペインのように、自国にハイレベルなリーグとクラブチームを構え、代表チームでも複数の同クラブ所属選手が揃うわけではない。日本代表は招集メンバーのほぼ全員が異なるクラブでプレーしており、限られた期間の中で選手同士の連携チーム戦術を磨くことを踏まえれば、森保ジャパンの固定的な代表選考は理にかなっている。中島・南野・堂安の呼応し合う連動性のように”個の力”から大きな”組織力”を生み出すためには、少しでも多くの時間を共にプレーする以上の術はない。メンバーの固定化は対戦国に対策をされやすいという弊害が生じるが、今回のタジキスタン戦のような臨機応変に対応する修正力新たな連携プレーの創出など、チームの成熟によって対策を上回る組織力を生み出せばいい。強豪ぶることなく謙虚に結果を出し続けた先に待つW杯の舞台で、ここまでのチームづくりが”迷走”でなく”布石”であったと証明されることを期待したい。

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